30年ぶりの再会!函館で響くジャズの調べ、思い出の喫茶店「バップ」へ
今年も函館に行ってきました。天気が良いのを見計らって突然行くこと。毎年恒例のこの旅は、私にとって特別な意味を持っています。海と山が織りなす美しい景色、そして歴史と人情が息づくこの街は、何度訪れても新たな魅力で私たちを迎え入れてくれます。

実は30年前、私はこの函館の新川町に半年ほど会社員としての出張所の応援出張ということで住んでいました。函館駅からほど近いこのエリアは、市電の駅も近く、学生の下宿が軒を連ねる活気ある場所でした。私は今のように自由業の画家ではなく、いわゆる社会人(一部上場の会社でした)1年目で学生たちと一緒に、各々6畳一間の部屋でトイレ共同(なぜか鍵なし、汲み取り式)という、今では考えられないような間借りの生活を送っていました。仕事に追われ、夕食は外食頼り。夜遅くの帰宅でお風呂にも滅多にはいられず、テレビも電話もない生活。もちろんインターネットなんて無い時代です。呼び出されるのに利用されるポケベルだけが与えられてました。今と違って公衆電話が多くありましたので、ポケベルだけでなんとかなりました。唯一の情報源はラジオでした。そんな不便さも、今となっては懐かしい思い出です。
活気あふれた駅前と、私の文化生活
当時の函館駅前は、今よりもずっと「街」としての賑わいがありました。老舗デパートの棒二森屋が堂々と建ち、今は取り払われた屋根付きのアーケードには人々が行き交い、華やかな雰囲気でした。今回行ってみると、あまり人は歩いてません。函館駅は立派になりましたが、駅前はさみしい感じがします。私にとって娯楽といえば、もっぱら本と音楽。だからこそ、私は当時駅前にあった森文化堂という書店と、玉光堂というCDショップの常連でした。

このあたりの歩道には屋根があったと思います。森文化堂とか玉光堂があったと思いますが、、、。建物すら見当たりません。
間借り部屋にはSONYのディスクマン(持ち歩けるCDプレーヤー)とSONYの有線の(当時無線のスピーカーなんてありません)アンプ内蔵スピーカーを置き、実家から持ってきた厳選20枚のCDを、仕事から帰ってきては大切に聴く毎日。当時の小型のスピーカーは今とは違って、カスカスのしょぼい音質でした。少しでも「カタログ」を増やそうと、玉光堂で新たなCDを探すのが楽しみでした。森文化堂では、適当に書籍もあり情報を得ようとしてました。本屋というのはその時もいまでも好きな場所です。インターネットもない時代なので、本屋として、その役割は街には必要なものでした。
自分の住んでいた新川町を歩いてみると、住んでいたと思われる建物も見当たりません。

この駐車場のあたりに住んでいたと思うのだが、、、。

布団を借りた、「河村ふとん店」だけがありました。今もしっかりと市電「新川町駅」のところに「河村ふとん店」は健在。

河村さんは河村質店も経営してたのか。それにしても老舗感のある建物。
「バップ」との30年ぶりの再会

そんな私の函館での暮らしの中で、特別な存在だったのがジャズ喫茶「バップ」です。当時は市電に乗って五稜郭方面の繁華街へ向かい、函館丸井今井デパート近くのビルの地下にありました。部屋で聴くカスカスの音質のジャズ、たった20枚のCDだけでは物足りず、本格的な音楽を求めてわざわざバップへ足を運んでいました。
店内に鎮座していたのは、オーディオファン憧れのJBLのパラゴン。しかし、流れてくるのは一般的なジャズとは一線を画す、いわゆるフリー・ジャズが多かったのを覚えています。正直なところ、私には理解し難いジャズでしたが、せっかくだからと、ビル・エヴァンスをリクエストしたこともありました。あの時の、身体に響くような素晴らしい音量は、今でも鮮明に記憶に残っています。当時の五稜郭周辺は、駅前や大門地区よりもすでに華やかな雰囲気でしたね。
そして今回、函館を訪れ、30年ぶりにその「バップ」に訪れてみました。今も存在していたのです!かつての建物は火事で水浸しになり、場所を移さざるを得なかったそうですが、昭和、平成、令和と、なんと55年もの長きにわたり経営を続けている老舗なのです。
お店に近づくと、ジャズの調べが外にまであふれていて、なんとも心地よい空間。店先のママが雀に餌を与えている、のどかな風景が広がっていました。昔の薄暗く、一見さんには入りにくい雰囲気とは異なり、光が差し込む明るい空間になっていました。

中から外をみると、のどかな雰囲気のあるところです。 昔の繁華街の地下の雰囲気とは全く違うイメージです。写真に写っているのは、すずめへエサをあたえすママの様子。
残念ながら、昨年マスターが他界されたとのこと。今は奥様お一人で、のんびりとお店を切り盛りされていました。場所は変わって、かつて私が住んでいた下宿の多い、あの新川町にひっそりと佇んでいました。不思議な縁を感じます。ちなみに無料駐車場もあるようです。
私が訪れてからは、音量を絞り、ママとの会話を1時間ほど楽しませていただきました。現在は昔ながらのジャズ喫茶というよりは、ジャズをBGMに会話や雰囲気を楽しめる場所へと変化しています。
これも時代の流れだと感じます。音源だけならストリーミングサービスで事足りますが、このお店では昭和の趣や雰囲気を味わうことができます。ジャズに詳しくない方でも、純粋にこの空間を楽しむことができるでしょう。
それと、ここには、とても人懐っこい猫がいるので、猫好きの方には猫カフェとしても楽しめるお店です。

現在のカウンターは昔の地下の店当時のカウンターの雰囲気を再現しているみたいです。うっすらとしか記憶にありませんね。
店内に入ると、かつてのパラゴンやアナログLPはなくなっていましたが、壁には亡くなった有名ジャズメンたちの写真がずらり!どうやらマスターが許可なく勝手に撮影したものや、マイルスやコルトレーンにサインをもらいに行った時の写真もあるとか。その情熱にはただただ脱帽です。アマチュアカメラマンとは思えないほど、素晴らしい写真ばかりで、まるで小さな博物館のようでした。

いまのバップは、いわゆるむかしながらの大音量の音で聴くために、リクエストに答えてくれるジャズ喫茶というよりも、マスターやママのジャズへの深い愛情と情熱が凝縮された博物館的な心地よいジャズのかかる場所だと改めて感じました。リクエストはサブスクストリーミングで大体できますからね。とにかく30年の時を超えて、変わらないジャズへの愛と、函館という街の持つ温かさに触れることができた、忘れられない一日となりました。

かつて函館の蔦屋書店にて「今はなき思い出のジャズメン写真展」をしたそうです。見たかったな。