懐かしき、我が家を育てる日々
かつて、僕は住宅の現場代理人、いわゆる現場監督として、家づくりの最前線に立っていました。図面を元に段取りを組み、時には施工図を起こし、材料の発注から予算管理まで、まるでお一人様工務店のような毎日。中でも、木造住宅の新築は一番の醍醐味でした。
それはもう、大変なことの連続です。材料商社との価格交渉、職人さんたちとの連携、工程管理、そして設計士や営業担当、何よりも施主さんとの綿密な打ち合わせ。特に、個性豊かな大工さんたちとのやり取りは、刺激的で忘れられない思い出です。一つとして同じ家はなく、それぞれの現場で様々なドラマが生まれるのです。
我が子を送り出すような引き渡し
そして、苦労の末に完成した一軒家を施主さんに引き渡す瞬間は、いつも独特の感情が込み上げてきました。自分の手から離れていく、例えるなら大切に育てた子が巣立っていくような感覚です。無事に役目を終えたという安堵感と、少しの寂しさ。この複雑な気持ちは、現場監督ならではのものかもしれません。
会社の方針で、引き渡しから約1ヶ月後には再訪問し、点検を行うのが恒例でした。何か不具合があれば、その場で手直しするためです。施主さんとの再会も楽しみの一つでした。
忘れられない、お風呂での「事件」
ある日のこと。点検のために一軒家を訪れ、お風呂の点検をしようとした時のことです。ノックをして返事がなかったので、中を覗き込むようにドアを開けました。すると、なんと湯気の中に、施主さんの高校生の娘さんがいらっしゃったのです!
一瞬、時が止まったかのように感じました。「しまった!」と焦りながらも、「申し訳ありません!」と頭を下げるしかありません。幸い、湯気で中の様子は全く見えず、娘さんもそこまで驚いた様子はありませんでした。むしろ、こちらの方が顔を真っ赤にしてしまっていたかもしれません。
その後、リビングで奥様と点検についてお話ししていると、お風呂から上がってきた娘さんが「さっきはどうも」と声をかけてくれました。特に怒られることもなく、その場は穏やかに過ぎていきました。
今となっては笑い話ですが、あの時は本当に肝を冷やしました。現場監督として、最後まで気を抜いてはいけないと痛感した出来事です。
家づくりは、本当にたくさんの人々の想いと努力が詰まった仕事です。あの頃の経験は、僕の人生にとってかけがえのない財産となっています。そして、あの時の焦りも、今となっては温かい思い出の一つです。